Profile: 村山晋一郎(むらやま しんいちろう) 
1968生まれ。宇多田ヒカル、平井堅、古内東子から上原多香子や酒井法子などさまざまなアーティストの作曲、編曲、リミックス、プロデュースを手掛けるサウンド・クリエイター。長いサラリーマン生活を経て脱サラ転身したという異色の経歴を持つ。少年時代をアメリカで過ごし本場のR&Bを体感。グルーブ感溢れるトラック・メイキングが定評。
最近の代表作品は今井絵里子「Don't stop the music」のリミックス(AVCD-16013)、Lyrico「Flowers」のアレンジ(SRCL5346)、平井堅「ex-girlfriend」の作曲、編曲、プロデュース。





前回ではオケの各トラックの詳細について説明しましたが、最終回の今回はオケを完成させて仮歌のレコーディング、ラフ・ミックス作成にいたるまでを説明していきます。今回はトラック・メイキング自体のことはさることながら、エンジニアリングの要素も多くなっています。仮歌の録音、音作りやラフ・ミックスにいたるまで今までエンジニアの領域だったこともクリエーターが行う機会が増えてきており、作業の一環として切り離せなくなってきています。

前回までは各楽器のパートごとに打ち込んでいきましたが、今回はよりオケとしてまとまりをつけるためいろいろと加工していきます。

まずはドラムですが、スネアには全体にProToolsのプラグインのコンプでリリースをばっさり切り、EQで高域を持ち上げ、ローファイ系のプラグインを薄くかけ暖かみを出しています。キックにはプラグインのコンプをかけてヌケを良くしています。




さらにキックの音には、ミキサーの別なチャンネルにサブ・ウーハー的な効果をもたらす別な音色を別に立ち上げました。このトラックはサブ・キックと命名。これは通常ラジカセやスモール・モニターでは確認できない重低音を加えるものです。スタジオのラージ・モニターやクラブのスピーカーで鳴らした時に大きな違いがでるものです。

音色としてはリリースの長いTR-808TR-909の音をローパス・フィルターで高域を切り落とし、さらにEQで低域全体を持ち上げ、コンプでさらにそれを強調して作ります。単体でならすとモコモコっとした色気のまったくない音ですが、他のキックと混ぜた時に「ドド」というキックの音が「ドドーン」と輪郭やヌケを維持しながら深く部屋全体に鳴り響くような重低音になります。

ではそのサブ・キックを加える前の音と聞き比べてみてください。
注:大きめのスピーカーでモニターしないと確認しづらいかもしれません。くれぐれも周りに迷惑のかからない音量にとどめておいてください。




スクラッチにはコンプ、EQとローファイ系のプラグインで大胆に加工。ハイハットと16分を刻んでいるエレクトリック・パーカッションは斜20度くらいの角度で、シェイカーとトライアングルは斜40度くらいの角度で左右にパンニング。こうすることによって、それぞれがより立体的に聞こえるようになりました。

ベースに関してはキックとの低域の干渉が気になったため、若干ハイパス・フィルターで低音を切っています。さらにコンプで音圧を少し出しました。キックとベースは両方とも主張させるのは難しく、相性の善し悪しもあります。単独で聴いて問題がなくても、重ねて鳴らすと突然ヌケが悪くなったり…。特に両方ともこだわって使いたい音色だったりすることも多いので、そういう時はいずれか、または両方の低域をコントロールすることにより低域のぶつかり合いやマスキングをカバーできたりします。

上物系では、白玉のエレピ(SRJV80-08:TremSuitcase)はEQで低域をカットしてヌケを良くした後、パンナーをかけて4分音符のタイミングで左右に振れるように設定。これは私の音作りの定番となっています。




刻んでいるエレピ(SRJV80-08:Dry Wurly)の方には軽くディストーションをかけました。サビにでてくるストリングス(SRJV80-04:Solina)には、コーラスをかけてマスター・リバーブにAUXで薄く送りました。

シーケンスフレーズ(SRX-05:Saw Wave HQ)ミュート・ギターっぽい音(SRX-05:R&B Pluck)には特にエフェクターは通しませんでしたが、それぞれを斜45度位に左右にパンニングしてみました。

ハープ(SRJV80-16:St.Harp)の音はリリース音の低域の響き方がオケ中で気になったので、EQでバッサリ低域をカットし、多めにマスター・リバーブにAUXで送りました。

シンセリード(SRJV80-12:Solo Sine)は2本ハモっているのをミキサー上では別々なチャンネルに立ち上げ、完全に左右にパンニングさせ不思議な効果を演出してみました。

キャラクターの違う楽器が左右に振れていると気持ちが悪く聞こえる時がありますが、このようにまったく同じ音色であったり生楽器をダブルで録った時など、このように配置すると不思議なステレオ感が出たりします。



   
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