Profile: 助教授(齋藤久師/さいとう ひさし)
91年ビクターエンターテインメントより日本初のテクノユニット『ガルトデップ』でデビュー。ユニット休止後、さまざまなクラブ系ユニットに参加し海外でのディストリビュートも積極的に行う。1996年よりステージ衣装から機材など全てを完璧に模したYMOの完全コピーバンド『Yセツ王』として活動。リアルタイムにYMOを体験した熱心な固定ファンのみならず、YMOのライブを見たことのない若いファンをも獲得している。MOVE(avex)のサポートとしてのライブへの参加や、雑誌などでのレビュー執筆など多方面で活躍している。



皆さんこんにちは! SH-32を使い全5回にわたってお送りしてきました「シンセサイザー・カルティズム」いよいよ今回をもって最終回となりました。これまでにレクチャーしたことを、SH-32だけに限らず今後もさまざまなシンセサイザーでの音作りに積極的に取り入れ、独自のサウンドを得る上で役立てていただければ幸いです。最後にいままで学んできたテクニックを生かしたアンサンブルに挑戦してみましょう!

シーケンサー以外はすべてSH-32のみで構成したアンサンブルデモを作ってみました。では早速sound01を聴いてみましょう。
[Sound01]


SH-32

この曲はおおまかに6つのパートで構成されています。曲自体は非常に単純な2小節のループですが、パートを抜いたり挿したり(ソロ、ミュート)またディレイなどのダブリングで全体の抑揚を付けてみました。SH-32単体でも4パートの演奏が出来るのですが、今回は6パートあるので1パートずつオーディオ機能を持ったシーケンス・ソフトへ録音していきました(なお、シーケンサーはオーディオが扱えるものでマルチトラックであればどんなものでも同じような制作ができます。また、オーディオ・トラックを持ったシーケンサーが無い場合はMTRなどでも代用できます)。それでは1つ1つのパートを抜き出してどのような音色作成がなされているかサウンドファイルを聴きながら解析していきます。


まずは基本になるベーシックなリズムです。SH-32には即戦力になる非常に素晴らしいリズムセットが用意されております。具体的に例をあげてみると、TR-808、TR-909、CR-78他エフェクト処理されたブレイクビーツの断片など豊富に用意されています。また、個々にフィルタリング調整ができるため、とても個性的なリズム音色をつくり出すことができます。この曲ではエフェクトされたTR-909の音を更にフィルターやインサーションエフェクトで加工し制作してみました(sound02)。
[Sound02]







[Sound03]
sound03はリズム音のパターンをインサーションエフェクトで加工した音です。歪みとフィルタリングにより微妙な音程感をつけシンセのリフのように聴こえるように制作してみました。この他、インサーションエフェクトのレゾナンス・ディレイやフェイザーなんかをかけても面白い音色ができるでしょう。もちろんREV/DELAYにて残響をつけることもできます。余談ですが、外部シーケンサーを使わずに、内部のアルペジエーター(ユーザーがオリジナルでパターンを書き込める)を使用しリズムパターンを打ち込みすることもできます。



さてドラム音色とシーケンスパターンが完成したところで、次にボトムを支えるベース音を作ります。この音色はより低音を強調させるためにオシレータ(OSC)のトライアングル波のVARIATIONの中から4番の「サイン波」を選び図1のようにパラメーターをセットしました(sound04)。

[Sound04]
フィルターエンベロープのアタックを上げることで、トリガー(弾く)するごとにカットオフが自動的に開いていく設定にしてみました。この音は超低音成分が含まれているため、パソコンなどのスピーカーでは聴き取りにくいと思いますが、逆に通常のスピーカーであまり大きな音を出すとスピーカーを破損する危険ですのでご注意ください(特にサイン波を使うと、耳では聴こえにくくてもレベルメーターは大きく上がることがあります)。



リズムとベースができたところで少し中域部分のパートを制作しました。フィルターの開閉が特徴的なポリシンセの音です(sound05)。オシレーター(OSC)は2基ともノコギリ波のVARIATIONの12番をセレクトしOSC1と2のピッチをFINEスライダーで若干ずらし、音に揺らぎをつけましょう(このテクニックはこの連載第3回目でやりましたね!)。
[Sound05]

パラメーターは図2のように設定しました。フレーズは同じコードの全音符をただループさせている単純なもので、演奏中にカットオフを手動で開閉させながら抑揚をつけたり、ディレイタイムをリアルタイムで変化させることにより通常では有り得ない空間が広狭するような演出をしてみました。



さて次はRolandならではの質感を誇るシンセパッドです。こういったせつなく繊細でいてあたたかい白玉はJunoシリーズやJUPITERシリーズでよく作った思い出があります(sound06)。元波形や設定はsound05の発展形ですが、ゆったりしたニュアンスをつけるためにアンプエンベロープのアタックとリリースの値を上げ目に設定してあります。
[Sound06]

また、フィルターをゆっくりと周期的に開閉させてあげるためにLFOにてスローなサイン波の揺れをフィルターにかけています。仕上げにインサーションエフェクトでコーラスをかけリバーブにて残響を足してあります(図3)。



最後はいよいよテーマとなるメロディーの制作です。音色の芯になり、せつなさとやわらかさを出すために、OSC1では三角波のVARIATIONの5番でサイン波を。また、OSC2では対象に冷たさをだすためにSPECTRUMのVARIATIONで19番のデジタル波形のような尖った音色をチョイスしました(sound07)。
[Sound07]

このようにOSCごとに違うレイヤーをいくつも重ねることによって、非常に複雑でカラフルな響きを持つ音色を作ることができます。また、このデモ曲はPATCHモードによりパートをいくつかオーバーダビングして制作しておりますが、SH-32はPERFORMモードに切り替えることにより、8種類(ドラム音源を含めると9種類)の違ったオシレーター波形を重ねることができますので、そうとうぶ厚く、他人には再現できないようなオリジナリティー溢れる音色を制作することができます。スライダーやツマミは図4のようにセットしました。
フィルターセクションではこもった感じを出すためにカットオフとレゾナンスを若干絞り気味にセット。アンプエンベロープではアタック感と減衰の余韻を長くするためアタックは0、リリースは上げ目にします。また、このメロディーは単音のためSOLO/UNISONコントロールボタンを押し、複数のオシレーターを1音にアサインし、より太い音作りに成功しました。




以上でこのデモ曲の構成及び音色解析は終わりです。これはあくまでも参考です。けっして間違った使い方などシンセサイザーの世界には無いのです。それぞれのユーザーが個性豊かに独自の操作と感覚で自由に音をゼロから作り上げることはとても素晴らしく、また楽しいことだと思います。

読者の方々で特に若い世代のシンセシストは小さく細かく数字の並んだディスプレイを見ながらの音色エディットを経験されていることが多いでしょう。昨今のシンセサイザーは小スペース化、またはローコスト化、そしてプリセット化……、と肝心の音色作りに焦点を絞ったインターフェイスを持つ製品が本当に少ないと思います。SH-32はそういった音色作りや野太いアナログライクな音色を作るために特化した製品です。これはRolandが出した我々の夢への解答です。 冒頭にも述べた通り、この連載でレクチャーしてきた音作りのノウハウはきっと現存するすべてのシンセサイザーに触れる際に役立ち、また押し入れで長年眠らせてホコリをかぶったアナログ・シンセサイザーの救済にもなることを願っております。

最後に、5回に渡る長編レクチャーにおつきあいいただきありがとうございました! またどこかで会えることを楽しみにしています! 「サ・ン・キ・ュ・ー・グ・ッ・バ・イ・!(VP-330調で)」



 
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