三枝成彰(Shigeaki Saegusa)
東京芸術大学大学院修了、在学中に安宅賞を受賞。現在、東京音楽大学客員教授を勤める。代表作品としてオラトリア「ヤマトタケル」、オペラ「千の記憶の物語」、ヴァイオリン協奏曲「雪に蔽われた伝説」、「レクイエム−曾野綾子のリブレットによる」、「太鼓について−太鼓協奏曲−」、またカンタータ「天涯」TENGAI(自由人の祈り)等の作品がある。 映画音楽では「優駿ORCION」「お引っ越し」「MISTY」他、テレビ番組でも、NHK大河ドラマ「太平記」「花の乱」等、多数の作品を手がけている。オーストリアの国際財団モーツァルテウムからの依頼で、モーツアルトの未完曲「ヴィオリン、ヴィオラ、チェロのための協奏交響曲イ長調」を補筆・完成し、モーツアルト没後200年を記念してザルツブルクの催しで演奏されたことも、話題となった。1997年5月には、構想に10年近くをかけたオペラ「忠臣蔵」を完成・初演し、各界の注目を集め、2002年1月3度目の再演が決定。現在は、プッチーニのオペラ「蝶々夫人」の息子を主人公にしたオペラ「ジュニアバタフライ(仮題)」の準備に取りかかっている。


最近オペラがブームですが、クラシックの入門としてオペラを観る、聴くというのはシンフォニーや室内楽に比べて入りやすい?
シンフォニーや室内楽は抽象的だから、これは結構難しいんです。それに比べてオペラにはストーリーがあるので、ヨーロッパでも解りやすいストーリーの演目の場合、クラシックの中でオペラは初心者向けとされています。音楽にプラスしてストーリーがあって、衣装があって、舞台装置がある。日本の「宝塚歌劇」と同じような感覚だと思えばいいと思います。大正時代にもエノケンさんなどが演じる「浅草オペラ」と呼ばれるオペラが大流行したんです。それは日本語に訳して演っていたんですが、戦後、演者に実力がついてイタリア語やドイツ語などの原語で上演するようになってきた。そうすると聴衆にはちんぷんかんぷんで、とても遠いものになってしまったんですね。ですが、最近のオペラ公演はステージの両側に字幕が出るんです。DVDでも字幕スーパーが出ます。今まではプログラムを読まなければ、物語の内容が分からなかったと思うんですが、現在は観ながら中身を理解できるようになりました。技術のおかげでオペラを楽しめるようになったんです。ただ、オペラもCDで聴くのは言葉を理解できないと凄く難しい。音楽って聴き流すでしょ? だから対訳を読みながら聴くのはとても大変なことなんです。できればビジュアルと同時に鑑賞するのがいいですね。

歌舞伎が昔、大衆のものだったことと似ていますね。
そうですね。歌舞伎とオペラ、それと京劇は1600年前後にできたという点でも似ていると言えますね。でも今はオペラより歌舞伎や能は難しいですよ。どちらもストーリーと歌、踊りがミックスされたものですが、歌舞伎はストーリー性のほうが強い。オペラは歌の要素が強いですから、より自然に理解しやすいですよね。

ミュージカルとオペラの違いはなんですか?
ミュージカルはオペラをより大衆化したものです。一番の違いはミュージカルには台詞があるんですが、オペラは全編が歌なんです。よく、ドラムやパーカッションが入るとミュージカルになると思う人も多いようですが、そうじゃないんですよ。ちなみに“オペラ(Opera)”という言葉の語源はラテン語で「作品、働いて作ったもの」という意味で、そこに「歌劇」という意味はないんです。「歌劇」と訳したのは日本語の見事な訳ですね。


オペラの鑑賞シーンは映画などでもよく出てきますが、お洒落してタキシードを着て観に行くようなイメージがありますね。
そうですね、でもそれは西洋でも公演の初日だけの場合が多いんですよ。演奏家に対して敬意を表するという意味と、女性が晴れ着を見せる場になっているんです。やっぱりお洒落ってお友達に見せたいじゃないですか(笑)。そういうチャンスがないとせっかく作ったオートクチュールを着る機会がないですからね。でも日本の場合は違いますよ。西洋では一般的に開演は午後8時からで、一度家に戻ってから観に行けるんですが、日本では午後6時、7時からなので仕事帰りに出かけることになるし、車ならいいですが、女性もドレスを着て電車に乗って来るのも大変ですから。だから、普通にスーツや、汚過ぎないカジュアルな服装でいいんじゃないですか?

オペラを全く知らない人が一番最初に観るのにいい作品はなんですか?
「蝶々夫人」(プッチーニ)か「ラ・ボエーム」(プッチーニ)、「椿姫」(ヴェルディ)なんかがいいと思います。これはとっても美しくて哀しい恋愛ものなんですが、すべてアウトサイダー的な生き方をしている人物が主人公になっているんです。蝶々さんは芸者、椿姫は一晩おつきあいするのに1千万円くらいかかる高級娼婦。ボエームのミミさんはいわゆる援助交際のようなことをしていて急に純愛に目覚めるんですが、みんないろんな過去を背負っている女性たちで、そこに様々な邪魔が入る。しかも最後にはみんな若くして結核などの病気で死んでしまうんですよ。綺麗な人はみんななぜか結核で死んじゃいますねぇ(笑)。椿姫にはモデルになる人物が実在して、今もモンマルトルにお墓があるんですよ。

今おっしゃっているようなことは観に行く前に予備知識として頭に入れておいたほうがいいんですか?
いや、プログラムを買えば全部載っていますから休憩時間に読めば次の幕で何が起こるかなんてすぐ分かりますよ。事前にビデオを買って観たり、調べたりするのが面倒なら、行って観ちゃえばいいんです。


 

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