6月22日に発売されたアルバム『KAUAI March-05 』で、R-4をお使いだとお聞きしましたが、R-4を一番最初にお使いになったのはいつですか?
K: このアルバムを作るためにハワイに行く出発の日の朝、初めて手にしました。本当ならもう少し勉強してから使いたかったんですけどね。でも、ハワイについてからあれこれ実験してみると、使い方が凄く簡単だったから全然悩まずにすぐ使えましたね。A/D変換がついていますが音質もしっかりしている。嫌味の無いカラッとした音、大丈夫な音がします。一番困るのは膜が張ったような音になることですが、それがないのがいいですね。
 
R-4を選ばれた理由は何だったのでしょうか?
K: 今までフィールド・レコーディングの時はDATを使っていたんですが、これが24bitになったら嬉しい、という考えがまずあったんです。そこでR-4を使うことを検討したんですが、最初は24bitはいいけど、96kHzや4chなんて要らないんじゃないかなと思っていたんです。でも使ってみたらやっぱり4chあると便利ですね。1年くらい前からProTools HDを使っていたんですが、96kHzはまだ使ってなかったんです。でも、これをきっかけに96kHzに移行しました。
 
なぜ入力が4chあると便利なんでしょうか?
K: 普通のフィールド・レコーディングではステレオで録りますよね。でも、それとは別にフィーチャーしたいものもあるんです。例えば、ステレオで複数の人間の演奏を録りつつも、メイン・ボーカルの人だけは別チャンネルで録っておきたいとか。ハワイアンでも、ボーカルとハーモニーの人、ウクレレを狙ったものとアンビエンスを4chで録るとか、いろんなアレンジが効くんです。
 
それらはR-4を使ってみて気がついた利点でしょうか。
K: そうですね。取りあえず使ってみよう、という気持ちになって良かったですよ。そのおかげでアルバムができたし。我々はいつも日本の楽器メーカーの進歩に凄く助けられていると思う。それは値段的なこともそうだし、技術的に今までできなかったことも、その機材と出会うタイミングでできるようになりますからね。
 
コンピューターへのデータの取り込みはDATに比べてラクになりましたか?
K: それはそうですよ。USBが付いていますからそのまま移せるでしょう。DATはそのままではデータにならないから、一度まずリアルタイムでコピーしなきゃならないですからね。
 
リアルタイムでコピーして、待つ時間も長くてもったいないですよね。
K: 待つ作業はあまり変わらないというか……。やはり大量に録ってしまうと時間はかかります。逆に言えば、テープの場合はセーブして録りますから大量に録らなかったんですよ。今はアルバムを録るのに何10ギガも使いますが、アナログテープの頃は、1本の重さが5キロ、しかも15分しか録れない2インチのテープを使ってた時代もあって、1つのアルバムをテープ5本くらいでやりくりしてました。しかも外国でばかりレコーディングをしていたから、テープ20キロを手に持って機内に持ち込んで(笑)。本当はひとり5キロまでしか上の棚に乗せちゃダメだから、さも「この荷物は重くないですよ」という涼しい顔してね。あれはいい筋トレになりましたよ。
 
 
実際にフィールド・レコーディングをする際にはノイズや振動などの障害もあると思うのですが、どのように対処しているのでしょうか。
K: そういう意味の事故はたくさんあります。でも、レコーディングそのものが事故の連続みたいなものですから、こればっかりはしょうがないですよね。今回のハワイでR-4を使ってレコーディングしましたが、例えばイギリス系の植民地の場合はコンセントの形が3ピンなんです、マレーシアやシンガポールがそうですね。だからグラウンド(アース)がしっかりしている。ところが、インドネシアやタイは日本と同じで電極にプラスとマイナスがないから、実は結構ノイズが乗りやすかったんですよ。参ったなぁと思ってたんだけど、停電が起った時に電池駆動にしたら何のことはない、そっちのほうが音が良かった(笑)。だったら最初から電池で録ってたよ! って思うよね。事故と技術の発展は常にシンクロしてる。それは録音だけじゃなくて人間そのものの発展も同じことだと思うけど。
 
トライ&エラーの繰り返しで新しい発見をしていくんですね。
K: 新しいストレスが新しい進歩を生むようなものですね。アルバム作る時の録音ってルールがないんですよ。だから、みんなが事故のようなことを通して発見をしていくんです。よく私はプロデュースって何だと聞かれて、英語で説明する時に「ART OF HANDLING TROUBLE」と答えるんです。トラブルをハンドルするアート、それがレコードのプロデュースだって、私のような星の運命を持っている男は答えます。もちろん、何もトラブルなくいつも美しく滑らかにできてる人もいると思いますけど(笑)。特にアーティストをプロデュースする時は、人間が相手ですから身体的、感情的な変化がつねにあるわけで、それを機材などの力や進歩でうまく補ってこれたんですね。今また、ビット数も16bitから24bitに上がり、周波数が96kHzまで録れるようになったとか、コンピューターもハードディスクの容量が上がったとか、ここに来て機材がぐっと進歩してきたので、また新しい階段を上ったところじゃないですか。
 
 
そういう時期はアーティストもやってやろうという気持ちになるものですか?
▲Bonsucesso Samba Clube
K: もちろん、今までできなかったことができるようになるわけですから。僕も去年の12月からいろんな作品をず〜っと作り続けています。ひとつは『ノルデスチ・アトミコ』というブラジル北東部のコンピレ−ション。今までは、北東部というとバイーアあたりの音楽しか世の中で知られてなかったんだけど、それよりもう少し北のレシーフェというところが実は凄い音楽の宝庫なんです。アメリカでいうと深南部、ディープ・サウスとかニュー・オリンズみたいな感じのエリア。

▲Maciel Salu
実は、このノルデスチがサンバやショーロのルーツなんですが、ブラジルでプロ音楽家として活動するには、南部のリオやサンパウロに引っ越すのが普通だった。さもなければ成功しなかった。ところがここ5年くらい、地元でも安価で高品質なハードディスク録音やヴィンテージ機材のシミュレーションを使ってすばらしい録音をこなせるニュー・ジェネレーションがたくさん出てきた。そのタイミングでもともとルーツのしっかりしたノルデスチ地方ヘの関心が高まってきているんですね。私は69年にアントニオ・ダス・モルテスという映画を観てこの地方のことがず〜っと気になっていて、去年カーニバルに行ったんですが、そのカーニバルが物凄くよくて、私の音楽経験の中で一番濃い音楽体験ができた。そこで今年もこのコンピレ−ションを作ろうと決めていたので、またカーニバルに行っていろんなアーティストの演奏に接しました。

他にはタイをテーマにした『HOTEL BANGKOK』、ハワイをテーマにした自分のアルバムも同時に6月にリリース、そして『ノルデスチ・アトミコ』の続編も年内にリリースする予定です。機材の進歩のおかげでこれだけたくさんの作品を全部同時進行でできるんですよ。音楽制作は、もちろんマーケットあってのことですが、同じように楽器や機材にも支えられているんです。
 
近々モロッコへ行くとお聞きしましたが、モロッコへもフィールド・レコーディングに行かれるんですか?
K: 今回はグナワという宗教音楽系のフェスティバルを見に行きます。グナワ・フェスティバルは今年で8年目なんですが、すでにヨーロッパでは認知されていて、フランスなどから1万人近くの観客がやって来るお祭りなんです。今年のトリはユッスー・ン・ドゥールで、しかも自分のバンドではなくてアラブ系のバンドと一緒に出るらしいですよ。グナワはこれからブームになりそうなルーツ・ミュージックのひとつ。レゲエのような存在になるかもしれません。1970年では、まだレゲエは認知されていませんでしたが、80年ではもう世界中で知られる音楽になっていましたよね。それと同じようにノルデスチやグナワは、今後5年くらいの間に世界で認められる音楽になると思います。
 
▲Abyssal
日本人の若者にも、ノルデスチやグナワのフェスティバルのような場所での音楽体験をして欲しいと思われますか?
K: ノルデスチには、去年はまだいなかったけど、今年はすでに3〜4人の日本人パーカッション勉強組が来てましたよ。今年はこのアルバムが出るので、来年はもっとそういう若い人が増えるでしょうね。私が今回、モロッコに行こうと思ったのは、偶然グナワを耳にする機会があった時に、サンバなどのブラジルの音楽の中にある、私たちがよく「リズムの訛り」と言っているリズムの揺れと全く同質のものを発見したからなんですね。グナワというのはスーダンから西アフリカ、マリを経由して、音楽奴隷として渡ってきた人たちの宗教音楽と言われているんです。カルカベという金属のカスタネットのようなものを数人で叩くんですが、そのアクセントをくり返してくると訛ってきて、オーディエンスがトランスしだす、それがサンバと凄く似てるんですよ。
 
そういう原初的な音楽について、アジアの場合はまた少し別枠のものだと考えてしまうんですが、久保田さんがアジア以外の原初的な音楽に共感するのは音楽のルーツだからですか?
K: まあ、ユニバーサルなものですよ。リズムって、塩とかスパイスのようにどのような料理にも使えるものなんじゃないですかねぇ。
 
今後、久保田さんが行ってみたいと思われている場所はありますか?
K: エチオピアとマリに行きたいんです。ただ、アフリカは衛生面や環境的に難物だと聞いていますから、いつ行けるか……。例えばマリに行くってことはマリの音楽と関わりに行くってことだから、私がマリとどう関わるのかを、まずはマリの大使館の人と話そうと思っているんですけどね。
アジアではやはりインドネシアですね。バリより東はポルトガル・ルーツが濃そうだから、 もうヨーロッパにはないものが発見できそうですね、ブラジル北東部のように。
 
では、最後に読者で音楽に携わっている人たちにアドバイスをお願いします。
K: 音楽だけじゃなくて人生を楽しむことです。生きることを楽しく、ポジティブにすることが音楽に繋がっていくと思います。生きるついでに音楽ができた、くらいの気持ちでイイじゃないですか(笑)。私の場合は、たまたま生きるための手段として、音楽があると思いますけどね。音楽制作にルールはないし、選択肢もとても多いですから、みなさんがそれぞれ合った組み合わせで、音楽生活を楽しんでいただければいいと思います。
 
取材は久保田氏の自宅兼スタジオで行いました。数日後にモロッコに行かれるという慌しいスケジュールの中、話せば話すほどに単なる機材インタビューの域を超え、いつのまにか日本のかつての音楽シーンを紐解くような重要な音楽談義ともなっていました。久保田氏がたびたび口にした“事故”は、“偶然”とも言い換えられるものかもしれませんが、実は“偶然”に対して常に“自然”でいられる氏であるからこそ、そこにポジティブなアクションが生まれてくるのだと思います。“事故”から生まれるクリエイティブの意味は深いものです。今回はロングインタビューとして掲載しました。あらためて久保田麻琴氏に敬意と賛辞を送ります。


Information
CD     
7月21日発売
V.A.
『Nordeste Atomico Vol.1』
¥2,520
ビクターエンタテインメント/VICP-63051
 
8月25日発売
久保田麻琴
『Spirit of Healing 〜Bali〜』
¥1,890
Della Inc.株式会社デラ/DHS-502
発売中    
久保田麻琴
『KAUAI March-05』
¥2,625
SHIBURAI/SBR-004CD
 
V.A.
『CAFE SIAM』
¥2,200
キングレコード/KICP-1077
     
blue asia
『HOTEL BANGKOK』
¥2,500
キングレコード/KICP-1078
 
東京ローカル・ホンク
『東京ローカル・ホンク』
¥2,500
mona records/MONA-008



   
Copyright(c) 2000-2005 Roland Corporation All rights reserved